<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと
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「俺が高校生だったら絶対にあの学校には転校しないな」
「何で?」
「だって殺されるじゃん」
「あっ、確かに。それうける〜」
物騒な会話である。でも意味が分からない。
話しているのは洋子さんとカズである。
そして、今の話題はマンガである。
金田一少年の話をしているのである。
なぜそうなったのかはいつもの通り不明である。
このまま「である」攻撃を続けてもいいが、これ以上作者の低脳ぶりを露呈するよりも話を続けよう。
「転校生はまず殺されるからな」
「我が校から死亡者続出!なんて志望者おれへんわな〜」
うどんの湯気でメガネがくもって、心もくもっているヒトシが横やりを入れる。本当に横槍で突き刺されても脂肪が邪魔して致命傷には至らないかもしれない。そしてうどんと違ってギャグは冷めている。
「コナンってすごいよね。どんな事件でも30分で解決しちゃうんもんね〜」
「基本的にはな」カズが口から煙を吐く。
「そやけど、コナンって高校生やろ。ほんならラン姉ちゃんとか言うてんのも結構やらしいよな。まぁ、勉強せんでも優等生やろうけど」
「そうね。考えてみれば子どものふりをした大人よね」
「僕はむしろコナンの同級生の方がすごいと思うよ」伊藤くんがようやく口を挟む。ついさっきまでフランスパンと大格闘していたのだ。やっとの事で牛乳を一気飲みし、強引に胃に流し込む。
「どういう意味?」洋子さんが魅惑的な視線で聞く。
「だってあのままみんなが進級したらコナン君と灰原さんはずっと年取らないから違和感あるよ」
「まあ確かに」
「歩美ちゃんも光彦くんも元太もどんどん大人になってさ、やがては子どもを持つようになっても、コナンと灰原はー」
「同窓会悲惨やん!てゆーか、マスコミ注目の的みたいな」ヒトシが伊藤くんの言葉も終わらないうちにつっこむ。
「黒の組織に見つかってジ・エンドか」カズが少し意地悪な顔をする。ジンの役が似合いそうだ。
「でも、コナンと蘭の関係ってもどかしくってついつい見ちゃうのよね〜」
「そこがうまいとこだよね。子どもはちびっ子探偵団の話で満足だし、大人は黒の組織のサスペンスぶりにドキドキ。で、女性は遠距離恋愛に夢中みたいな」伊藤くんは自分で言いながら、本当に遠距離だなと思う。
「金田一は一歩間違えばスプラッターやもんな。読者の年齢層もコナンより狭いかもしれへんな」
「コナン君の名前の由来って何なの?」
「え〜と、コナンが蘭に追いつめられた時とっさに背にした本棚にあった江戸川乱歩とコナン・ドイルから取ったんやったな」
「そうか。だから江戸川コナンなんだ」
「小渕と黒田でコブクロか」ヒトシがつぶやく。
「赤川京太郎は?」カズが話の波に乗る。彼ならサーファーと言われても違和感が無い。
「微妙やな」
「司馬みゆきは?」再度、波に乗る。
「性別変わってるやん!しかも推理作家ちゃうし」
洋子さんが持っているフォークを落とす。カズのツボにはまったらしい。
「山村圭吾はどない?」
「もういいって。面白くないし」洋子さんがヒトシに氷の矢を放つ。触られる相手によって痴漢かそうでないかが変わるようだ。
「赤川次郎と言えばやっぱり三毛猫ホームズよね〜」
洋子さんが頬杖をついている。
そんな格好が似合うのも洋子さんの魅力の一つだ。
「そやな〜、猫が探偵役なんて珍しいもんな〜」
ヒトシもまた頬杖をついているつもりらしいが、オットセイが陸に上がっているようにしか見えない。餌付けでもしてやろうか。
「赤川次郎さんの本って、セリフのテンポが良くてついつい読んじゃうのよね〜」
「執筆量が半端じゃないしな」カズは顎の辺りを手でさすっている。
推理小説界の二大巨頭と言えば、赤川次郎と西村京太郎以外にはいない。それはまるでゴルゴ13とこち亀のようだ。さいとうたかをと秋本治か。
毎月のように新刊が並ぶと一体どんな生活を送っているんだと思ってしまう。
司馬遼太郎がまだ生きていると思う人もいるのではないだろうか?
常に山積みの本、本、本。
その陰で売れない本はどんどん再生紙として紙クズに変わっていく。在庫量の管理費だってバカにならないのだ。
そこで出てくるのが電子書籍である。
このブログのように紙を使わなければ資源の無駄遣いは起こらない。無駄な言葉遣いもデータにすれば知れている。
しかも受信媒体に合わせていろんな形で提供できる。
携帯で読む人もいれば、PDAで読む人もいる。もちろんパソコンも。質量も何十冊も本を持つよりもずっと軽い。まるで歌をダウンロードするように読みたい時に読めて、いらなくなれば消去できる。しかも新刊もいつでもすぐ手に入る。
知らない言葉は辞書機能で引けるから、語学教材でも問題ない。作者の経歴や他の著作も参照は容易である。
視野角も普通の書籍より広い、文字のサイズや書体も任意変更できる。
但し、転用もまた容易だ。著作権の侵害は深刻な問題である。
このブログのような内容のないような文章なら特に心配ないが、それこそ司馬さんのような名文がコピー&ペーストされれば、本の売れ行きは下がるかもしれない。ひいては出版そのものがあやうくなってくる。
今の読書世代は紙媒体が当たり前かもしれないが、携帯がごく身近な物に取って代わったように人間とは順応性の早い生き物なのだ。
伊藤くんの書籍データは全てサーバーに保存されていて、必要な時に必要なデータを落として使っている。しかし、メモリー領域を増やせば、書棚一つ分の本をポケットに持つ事も可能である。
ある読書家の家には本棚が無いというのはタイムマシーンを使えばミステリーの謎としては通用するかもしれない。コナンはいつ大人になるのだろうか。