2006-03-01から1ヶ月間の記事一覧

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

55 「これってどんなゲームなの?」 「自分が動物の村の住人になってスローライフを楽しむ作品だよ」 洋子さんは今、任天堂DSで『おいでよ どうぶつの森』をプレイしている。画面の中では二等身のキャラクターがゆっくりとした歩調で村の中を散歩している…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

54 「ねえねえ、伊藤くんって任天堂DS持ってるって本当?」 「うん、持ってるよ」 「じゃあ、脳を鍛えるソフトって持ってる?」 「あるよ、ほら」 そう言って鞄から白い物を取り出す。 「うわ〜、こんなんなんだ」 「ライトじゃないけどね」 「ライト?」 「…

<小説のお時間>〜伊藤くんのつぶやき

53 伊藤くんはグランドの観客席にいる。 春にしては強い日射しが顔に陰影を作る。 のどかだ。 こうしていると世の中から隔絶されたような気分になる。 まるで呼吸を止めたように静かだ。 時間の流れがどこまでもゆるやかで自分の存在までもが無に感じる。 遠…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

47 僕がなぜ小説もどきを書くようになったかと言えば、それは神の啓示を受けたからだ。 降臨された神はその時、私めに向かってこうおっしゃった。 お前の書く小説が見てみたいと。 だから僕は毎日こうして小説らしきものを書いている。 もしかしたら、神がお…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

52 こんな夢を見た。 歯の出た男が舞台の真ん中に立っている。 そして、私って○○だな〜と思う時というお題の再現VTRが流れている。 伊藤くんはそのVTRを見ながら、事前に書いて提出した自分の体験談を反芻する。いつこの司会者が自分を指名するのか分からな…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

51 伊藤くんは家に帰り、マックを触っている。もちろんパソコンの事だ。 ウインドウズ全盛期にあっても伊藤くんはマックが好きである。おそらく両者の間に性能的な差はそうは無い。 もしあるとすればそれはセンスの差だろう。 例えば、ファイルに名前をつけ…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

50 「メールの返信で、ちょっと残念に思う時って無い?」 「どーゆーの?」ヒトシがDo you know?にかけた発音で茶化す。そんな技を使わなくても容姿だけで十分元は取れているのに。 「アドレス変更の一斉送信」 「あっ、あれか。確かに送信元にズラズラとい…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

49「この前の塩アメじゃないけどさ。異例の組み合わせというか、逆転の発想ってあるよね」伊藤くんに限らずこのような唐突な話題の転換は、大抵の場合すでにその答えが用意されている時に起こる。 そこでこの場合もまた、当然のように次の質問が繰り返される…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

48「乾パンの缶の中には何で氷砂糖が入ってるんやろうな」ヒトシが急に質問する。 「さぁ、たまには甘い物が食べたくなるからじゃない?」洋子さんが何でそんな事をとでも言いたげにヒトシの顔を見る。 「あれは口の中を潤すためだよ。食べてばかりだとパサ…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

47 僕がなぜ小説もどきを書くようになったかと言えば、それは神の啓示を受けたからだ。 降臨された神はその時、私めに向かってこうおっしゃった。 お前の書く小説が見てみたいと。 だから僕は毎日こうして小説らしきものを書いている。 もしかしたら、神がお…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

41 こんな夢を見た。 サングラスをかけたオールバックの男が隣に座っている。少しすきっ歯だ。そして背が低い。サングラスのせいで目の動きが分からない。 観客がいる。100人位だ。 驚いた事に男は観客をあおっている。 そして拍手を静する。 もしかしてこ…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

46 またこんな夢を見た。 隣にあぶらぎった険しい顔つきのおじさんがいる。 そしてなぜか電話で悩み相談を渋い顔をしながら聞いているのである。 この男はー。 伊藤くんもおもいッきり悩みを聞いているのである、なぜか。 ホワイトボードには見事なまでの人…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

45 映画館というのは全くもって不思議な空間である。 そこは大勢の人が一つの画面を見つめる広場。 しかし、だからこそいろんな人間がそこにはいる。 マナーを知らない人が多いと思うのは伊藤くんだけだろうか。 先日も映画館でいろんな人間を見た。映画がつ…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

44 「対比って大事だよな」 「えっ?」洋子さんがきょとんした目つきでカズを見る。 きたぞ、きたぞと伊藤くんは思う。カズワールドが今まさに幕を開けようとしているのだ。 「例えば、この塩アメはまさに味のコントラストだ。辛いものが甘いものを引き立…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

43 「話は変わるけど大学に入って驚いた事ってある?」 何かを思い出したように洋子さんが話し始める。 「う〜ん何だろう。まぁ自由になったって事かな」伊藤くんも懸命に記憶をたどる。 「大学ノートって使ってる奴おるんかな」ヒトシがあさっての方向へ話…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

42 「俺が高校生だったら絶対にあの学校には転校しないな」 「何で?」 「だって殺されるじゃん」 「あっ、確かに。それうける〜」 物騒な会話である。でも意味が分からない。 話しているのは洋子さんとカズである。 そして、今の話題はマンガである。 金…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

41 こんな夢を見た。 サングラスをかけたオールバックの男が隣に座っている。少しすきっ歯だ。そして背が低い。サングラスのせいで目の動きが分からない。 観客がいる。100人位だ。 驚いた事に男は観客をあおっている。 そして拍手を静する。 もしかしてこ…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

35 「自首のタイミングって分かる?」伊藤くんが名誉挽回とばかりに火種を点ける。 「自首のタイミング?」洋子さんが輪唱する。ある日、森の中〜。 「自首のタイミングって何やねん」ヒトシに出会った。ダメだ。伊藤くん、慌てて歌詞を直す。 「じゃ、自首…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

40 伊藤くんの近所で最近大きなスーパーが立て続けに(建て続けにか)二軒もできた。これは風光明媚な田舎にとっては一大事である。なぜこんな辺鄙な場所にそんな物が二つもできたのだろう。駅前にはコンビニさえ無い田舎である。 まるで砂漠に突然浮上し…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

39 伊藤くんの利用する駅には、面白いサービスがある。駅の一角に書棚が備えつけてあるのだ。傘の貸し出しというのは、最近よく見かけるようになったけれども、そこにはいろんなジャンルの本が所狭しと並んでいる。おそらく始めは遺失物の本ばかりだったの…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

38 UFOの略をご存じだろうか? 正確には、Unidentified Flying Object。つまり、未確認飛行物体である。 ではP.T.Aの略はご存じか? Parent-Teacher Association。つまり、親と先生の組合である。確かに両者のとっくみあいは日常茶飯事なので間違いではな…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

37 『街』というゲームソフトがある。来月にはついにPSPに移植される予定だ。「ついに」という言葉の重みを感じられるのはごく一部の人間だけかもしれない。週刊ファミ通で読者が選ぶTOP20に常に上位ランクインを果たしつつも、なぜか売り上げの及ばない謎…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

36 今、筆者は生駒山の連なる尾根を見ながらこの小説?を書いている。司馬遼太郎がかつてこの山を遠望しながら、数々の名作を生み出し、今なお日本中の人々に感動と人生の英知を授けているのに比べ、僕はちょうどその反対側からこの山を見て、暗がり峠には大…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

35 「自首のタイミングって分かる?」伊藤くんが名誉挽回とばかりに火種を点ける。 「自首のタイミング?」洋子さんが輪唱する。ある日、森の中〜。 「自首のタイミングって何やねん」ヒトシに出会った。ダメだ。伊藤くん、慌てて歌詞を直す。 「じゃ、自首…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

29 「さっきのはなかなか楽しかったな」カズが伊藤くんを誉める。 場所はまたまた学食である。 三時のおやつとは誰が決めたのか知らないが、テーブルの上には賛辞のおやつが集まっていると思っているのは伊藤くんだけだろうか。とにかく、みんなでおやつを…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

34 「やり込みゲームって知ってる?」伊藤くんがポテチの袋を開けるように沈黙を破る。実際に彼の手元にはお菓子の山ができている。 いつものごとく、いつもの場所で、いつものメンバーが、いつものように時間を共有しては消費していく。 この場合、何が楽し…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

33 晩ご飯を済ませると伊藤くんは、一人レイトショーを始める。 壁に掛けられた大型のモニターからレンタルショップへアクセスする。このモニターはネット接続されているのだ。いろんな作品パネルの中から『12人の優しい日本人』を選び出す。これは古畑任三…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

32 「いいかい。計算にはきまりがあるんだよ」 伊藤くんが今年で小学校四年生になる中山さとる君に算数を教えている。 「えー、適当に計算しちゃダメなの」さとる君が愛嬌のあるむくれた顔をする。 「物には何でも順序があるんだよ。家に入る時だって、いき…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

31 洋子さんとヒトシの小説談義がひとしきり済んだ後、二人は講義があるという事で席を離れた。残ったのは伊藤くんとカズである。そう言えば、前にもこんな事があったなと伊藤くんは思ったけれど、何の話題をしていたのかはひっそりと佇む神社のように記憶に…