<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

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 僕がなぜ小説もどきを書くようになったかと言えば、それは神の啓示を受けたからだ。

 降臨された神はその時、私めに向かってこうおっしゃった。

 お前の書く小説が見てみたいと。

 だから僕は毎日こうして小説らしきものを書いている。

 もしかしたら、神がおっしゃった言葉はお前の親の顔が見てみたいだったかもしれないが、ともかく勘違いにせよ僕は現在まで文章を書き綴る事になったのだ。

 それも今回で47回目。つまり、僕は47日間書き続けている事になる。1ヶ月を越していたとは驚きである。怠け者の僕がである。

 どうしてそんなに文章が書けるのですか?とは今まで一度たりとも聞かれた事が無い。仕方が無いから自分から告白すると、それは読者がそこにいるからだ。

 より正確に表現するなら、読者がそこにいるのではないかと推察するからだ。今読んでくれているあなたがいるからだ。
 あなただけ見つめてる

 今日もそんなあなたに感謝しつつ、話を進めよう。

「昨日ツタヤが半額キャンペーンだったけど何か借りた?」

 学生の話題はいつだって唐突である。特にこのグループには常識は通用しない。発言の主は山口洋子さんである。

 フルネームで書いたのはたまに書かないと忘れてしまうからである。ちなみに伊藤くんの下の名前はまだ決めていない。

「僕、4枚借りたよ」伊藤くんが嬉しそうに答える。洋子さんの話題に答えられるのが嬉しいのだ。
「何?」
オールドボーイZガンダム逆境ナイン女王の教室
「ようわからんわ」ヒトシの手がつっこみの形になっている。
オールドボーイとはまたすごいとこに行ったな」カズが伊藤くんの顔を興味深げに見る。
「あれって怖いんじゃないの?」洋子さんは怖いものが苦手なのだ。
「俺、それ知らんわ」
「まぁ、怖いと言えば怖いね。でもホラーじゃないよ。ソウみたいに閉じこめられる話だけど、サスペンスでもないし」
「ソウ?」
「ノコギリのソウさ」
「ああ、SAWね」洋子さんにも意味が通じたらしい。
 音だけを聞いていると全く違う風に聞こえそうである。
「そう?」
「ノコギリの操作」
「ああ、そうね」
 全く意味が分からない。
 日本語の「そう」と英語の「SO」が一緒だと知った時は意外だった。意味まで似通ってるなんてすごい偶然ではないか。
「それも怖い系?」
「うん。地下室に二人の男がなぜか監禁されているんだ」
「それで?」
「しだいに二人はお互いを疑心暗鬼し始める」
「それって、孤島モノみたいじゃない!」洋子さんの目が輝く。
「まあまあ」ヒトシが慌てて両手を前にかざして押しとどめる。
 前に小説談義でえらい目にあっているので警戒したのだろう。
「やがてとんでもないどんでん返しが起こり、驚愕のラストが最後に待ってるねん」ヒトシが続けて伊藤くんの代わりに説明する。
 ラストって最後に決まってるやん!
「あれは意外だったな」
「カズでも分からなかったの?」
「ああ」
「へ〜。じゃ、見てみようかな」
 何でそうなるんでござんすか。
オールドボーイは見たの?」
「見たよ。ちょっとエグイけどね」
「えっ」さすがに洋子さんが気色ばむ。
「あの主演の役者さんがすごいよね」伊藤くんが割り込む。
「役所公司みたいな感じだな」
「そう言えば似てるかも」
「ハリウッドでリメイクされるらしいな」
「あれって、アメリカ人がやるとちょっと違うかもしれないね」
「そうだな」
「そう言えば、ツタヤでちょっと感心しちゃったよ」
「何があってん?」
「レジの女の子が合計金額を言うのが早かったんだ」
「計算が早いって事?」その女の子ってどういう子よ?とは洋子さんは聞かない。女性の前で他の女性の容姿を誉めるのが得策ではない事を伊藤くんは知っている。
「多分それもあると思うけど、僕にはその思考の軌跡が見えたんだ」
「は?お前の思考が見えんわ」スーパーヒトシが赤色に変わる。
「2枚レジに通したところで値段を言ったんだよ」
「なるほど」思考を読むのが早いカズがすぐにうなずく。
「何なに?分からないわ」
「俺も」
「つまり4枚の半額だから2枚の値段を言ったという事さ。お客さんがお金を用意している間にレジを済ませる事ができる。だろ?」
 カズが伊藤くんをちら見する。
「うん。その通り」いつも通り司会者が入れ替わる。
「なるほどね〜」洋子さんが見ているのはもちろんカズである。
 そして、誰にも見られていないのが半額以下のヒトシだったりするのだ。

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