2006-02-01から1ヶ月間の記事一覧

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

30 どうにも捨てられない物というのがある。僕(私事ながらこれから筆者の自称はこれに改める)の場合は本である。 「本は僕の体でできている」は真でないが、「僕の体は本でできている」は真である気がする。川島なおみといい勝負だ。焚書坑儒なんて死刑…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

29 「さっきのはなかなか楽しかったな」カズが伊藤くんを誉める。 場所はまたまた学食である。 三時のおやつとは誰が決めたのか知らないが、テーブルの上には賛辞のおやつが集まっていると思っているのは伊藤くんだけだろうか。とにかく、みんなでおやつを…

今週の伊藤くんのひとりごと(総集編)

23 駅までの道のりは時間にして約10分である。そう遠いわけではない。ある家の前を通り過ぎたところで伊藤くんの思考にノイズが入る。 表札の一文字が欠けていたのだ。木製の楕円形の表札にカラフルで立体的な文字が一字ずつ貼り付けてある。伊藤くんの今日…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

28 前回、4人の人間に二枚のカードを配り、1枚のカードに一つだけ任意の名詞を記すという課題を出した。 伊藤くん達がそのカード作りに専念している間に、アイデアの発想法についてもう少し考えてみよう。偉大な発明をする人はその陰でたくさんの失敗を…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

27 「じゃあ、そろそろ始めますか」伊藤くんが席を立つ。 議論の舵はいつもカズに奪われてしまうが、材料を差し出すのは伊藤くんの役目である。漁師とシェフのような関係と言えるだろう。 教壇までは机一つ分くらいしかない。そこから教室を見渡すと、ほんの…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

26 前回、問題が提示された。 細くて狭い廊下で見知らぬ人が向こうから歩いてきた時、あなたならどうするか? そんな問題だった。 実はまだまだ考える事がある。 その人物は何歳くらいの人なのか? 狭い廊下はどこの廊下なのか? 相手の歩く速さとこちらの…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

25 「僕は絶対、握手しないな」 一体、何の話なのだ。 そして誰がしゃべっているのだ。 場所はどこなのだ。 映像の世界と小説の世界の違いをまざまざと感じさせる実験である。 握手をしないなんて、よほどその人物と仲が悪いのだろうか? あるいはサイン会…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

24 ホームに着くといつも感心する事がある。このホームは両側に電車が停まる。ホームからは雄大な山並みが見えるが、伊藤くんにとってはすでに日常風景だ。それは海育ちの人間が海を意識する事が無いように極自然な自然である(不自然な表現だ)。 だからこ…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

23 駅までの道のりは時間にして約10分である。そう遠いわけではない。ある家を通り過ぎたところで伊藤くんの思考にノイズが入る。 表札の一文字が欠けていたのだ。木製の楕円形の表札にカラフルで立体的な文字が一字ずつ貼り付けてある。伊藤くんの今日の注…

今週の伊藤くんのひとりごと(総集編)

17 ところでみなさんは一人カラオケというのを体験した事がおありだろうか? まず、一人カラオケをするにあたっては、入念なリハーサルが必要である。部屋のアポを取ってから、退出してお金を払うまでが勝負なのだ。 だから頭の中で(できれば前日の夜に)綿…

<小説のお時間>伊藤くんのひとりごと

22 2×3:30−12 6:18か。 相変わらず面倒な目覚まし時計である。もらい物でなかったら、とっくに小さな古時計になってクローゼットの片隅で永眠しているだろう。 伊藤くんの今朝の頭のトレーニングは任天堂DSの『えいご漬け』である。 さらさらと俳人のご…

<小説のお時間>伊藤くんのひとりごと

21 「カズも歌えば?」 入室から約1時間。洋子さんのジャニーズメドレーが終わり、洋子さんのドリカムメドレーが終わり、洋子さんのー つまり、洋子さんが歌い疲れた頃、バトンは男性陣へと回される。アニメソングが歌いたくてうずうずしている二名の男をよ…

<小説のお時間>伊藤くんのひとりごと

20 「私、ドリカムいっちゃおうかな〜」 すっかりカラオケを満喫している洋子さんである。気が付けば、さっきからトリノオリンピックの実況レポーター以上にマイクを離していない。ワンウーマンショーだ。 「ねっ、ドリカムの初期の名曲に面白い語呂合わせ…

<小説のお時間>伊藤くんのひとりごと

19 さて、ここで作者の物語リモコンを持つ手は一時停止ボタンに触れる。この比喩表現は適切だろうか?メタファーも何もあったもんではない。極めて感覚的というよりマンガ的な陳腐な表現ではないだろうか? と書いてみて、「?」よりも「。」の方がいいのだ…

<小説のお時間>伊藤くんのひとりごと

18 「マクドと言えばさ。バーガー安いよな」口調は関東弁でもマックとは決して言わないカズである。ミスタードーナッツはミスドだ。ロイヤルホストがロイホなら。ドンキホーテはドンホ、びっくりドンキーはびくどか?何だかエラリィークイーンに怒られそう…

<小説のお時間>伊藤くんのひとりごと

17 ところでみなさんは一人カラオケというのを体験した事がおありだろうか? まず、一人カラオケをするにあたっては、入念なリハーサルが必要である。部屋のアポを取ってから、退出してお金を払うまでが勝負なのだ。 だから頭の中で(できれば前日の夜に)綿…

今週の伊藤くんのひとりごと(総集編)

11 気が付けば、もう11である。セブン…である。 もう3万文字も書いているのに、全く進歩が無い。 話の展開も遅々として進まない。はは。 400字詰め原稿用紙に換算して、70枚以上。そのうち作者のつぶやきというかぼやきが65枚ほどあるのではないかと推察…

<小説のお時間>伊藤くんのひとりごと

16「ちわっす!」 また新たに人格不確定人間が登場した。カズだ。 「どしたん?今日はやけに早いやん」ヒトシが声をかける。 にやりとしながらカズが伊藤くんの横に腰を下ろす。 「まっ、そういう時もあるわな。で、何の話でヒートアップしてるわけ?」 どう…

<小説のお時間>〜伊藤くんのつぶやき

15 「おはよう」ヒトシが部室という名の食堂に入ってくる。 「うん、おはよう」 薄いカーテン越しに透過する寝ぼけた朝の日差しを背に伊藤くんが挨拶を返す。 「朝の講義は無いの?」 「うん、俺今日は昼から経済学」 「へー、そうなんだ」 扉が開く。 「…

<小説のお時間>伊藤くんのひとりごと

14 朝の電車は相変わらず混んでいる。そして、みんな一様に急ぎ足だ。駅の階段を脱兎のごとく駆け上がる人々。二段飛ばしで登る若者、ハイヒールを器用に操ってつま先でくのいち忍法を披露する女性(男性は想像したくない、朝からケインだ)、どこにそんな…

<小説のお時間>伊藤くんのひとりごと

13 7時25分 2時20分 06:14 09:02 5時55分「くそっ!」 「あっ、5じゃなくて2か」 このような文章をあと10行でも書けば、読み手はおおまかに次の二つに分ける事ができるだろう。 一つは意味不明で曖昧模糊とした冗漫な文章に嫌気が…

<小説のお時間>伊藤くんのひとりごと

12 伊藤くん達は、下の階へと移動する。 いきなり話が進むなんて素敵である。自画自賛である。分からない人は11を飛ばして10から読み進めるといい。 ヒトシくんだけは今いち腑に落ちない顔をしている。もちろん伊藤くんだってホントのところはカズの真…

<小説のお時間>伊藤くんのひとりごと

11 気が付けば、もう11である。セブン…である。 もう3万文字も書いているのに、全く進歩が無い。 話の展開も遅々として進まない。はは。 400字詰め原稿用紙に換算して、70枚以上。そのうち作者のつぶやきというかぼやきが65枚ほどあるのではないかと推察…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと総集編(ちょっと手直し版)

この辺りで、伊藤くんのひとりごとをまとめて読みたいというコアなファンのリクエストにお答えして(一人で書いていると虚しい)、今回は大河ドラマ並みに総集編をお届けする。これが、作者のひとりごとである。 1 伊藤くんは、怠け者である。のび太に負け…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

10 時刻は夜である。 この小説が画期的というのは、掟破りという意味においてである。ここでは時間的拘束も場所による制限も無い。 時系列は複雑であり、学年はドラえもんやコナンのように変わらない。登場人物が全く言葉を発しない事もあれば、主人公以外…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

9 さて、私は多分おそらくきっと間違いなく半信半疑ながら小説を書いているはずである。この希望的観測表現に満ちた一文を読者のみなさんはこれからも先も般若心経のように何度も心の中で反芻しながら読んで頂きたい。 目を左右に走らせる筋力トレーニング…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

8 伊藤くんはここで新たなアイデアを思いつき、PDAに書き込む。 覗いてみよう。 多画面DSとある。 そこに何やら図が書いてある。 任天堂DSは二画面だが、彼の書いた図には何画面ものスクリーンがつなげて書かれてある。まるでムカデである。こんな気持ち悪…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

7 朝、目を覚ます。 などと書くと、朝目を覚まさない奴がいるのか?とお叱りを受けるかもしれない。しかし、世の中には夜のお仕事で夕方に目が覚める人もいるのだから侮れない(この言葉の響きはなかなか面白い)。 しかし、伊藤くんはごく標準的学生という…