伊藤くんのひとりごと

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 劣化である。
 
 今日はその事について小一時間くらい話してみたいと思う。
 
 但し、書くスピードと読む速度には違いがある。たいていの場合、後者は前者を圧倒する(と書いてあると、いちいち前の文章に戻って確認してしまうのは僕だけだろうか)。音読しながら読めない人でも書くスピードよりは速い。なぜなら文章を書くという行為には、文章自体を考えるという作業が伴うからだ。
 
 文章を読んでいる時だって考えるのではないかと思った人もいるだろう。例えば、メールを打つ時だって文章を考えてはいる。まさか勝手に指が動き出していつの間にか送信してしまいましたなんて事は酩酊しているというような特殊な状況を除いて普通は無い。ハウルじゃないのだから。動く城じゃないんだから。

 くどい。

 特にこういった極めてストーリー性の強い文章を書く場合は、構成、文字バランス、ホワイトバランス等、夏の日射しにさらされて大丈夫か常に紫外線に気を配らなければいけないので時間がかかる。

 だから?

 だから小一時間というのには個人差があるという事だ。こうやって、話をつなげていく所が匠の技である。というより、今日もこの調子でだらだらと文章をつなげていく。ストーリー性なんて木村カケラもない。はい、すいません。

 伊藤くんが先ほどのゲームに熱中していると携帯にメールが届いた。ところで伊藤くんは、携帯に着うたを入れてはいるものの、着信設定には使わない。もっぱら聞くだけだ。

 つまりマナーモードが通常使用なのである。

 だから振動でメールの受信を知る事になる。電話も同じである。だからデフォルト設定の音が何であるかも未だに知らない。

 電車の中で着音をことさら大きくかけている人を見る(聞く)と、周りの人に聞かせたいのかと思ってしまう。そういう人に限って、鞄の奥に入れてたりして、取り出すまで鳴りやまないから必死で探してたりする。

 いかつい顔をしたおじさんがなぜかキューピー3分クッキングのテーマを流していたりする。誰かが呼んでいるのかと思って見たら、孫の声を着音にしていたりする。お前は大泉逸郎か!と言って、今のお若い方々に果たして通用するものか。まるで小梅太夫のネタになりそうな日常が車内に散逸している。このブログと共に謎である。

 そんな伊藤くんの元にメールが届いた。全くつながっていない。そもそも劣化の話はどこへ行ったのだろう。新品の携帯はどんなに丁寧に扱ってもそのうち劣化するという話を書こうと思っていたのに、それはまあもういいかなと思い始めた。話を先に進めよう。メールの話である。その受信相手の話である。
 
 誰かと思えば、久しぶりに登場のヒトシである。

 以下も全く余談ながら、「ひ」と入力してヒトシと変換するまでにいくつかのステップを必要とした。つまり、それくらい久々だという事を拙い文章にしてみたのだ。おそらくこんな表現は小説という世界では初めてではないかと思いつつ、これは小説ではなかったなと自戒する。

 そんな伊藤くんにヒトシからメールが届いた。

 だから内容は何なんだ!

 上司の目を盗んで職場で秘かに読んでいるあなたにとっては実にいらいらする文章である。いるのか、そんな奇特な人が。もしかしたらお前自身なのではないか?いやいやいやいや。

 仕事の合間にブログを書くなんて事はトムクルーズでも無理だろう。

 ミッション・インポッシブル。

 くどい。

 こうやって検索にヒットしそうな言葉を散りばめて、読者を引き込むアリ地獄手法である。しかし、実際そうやって訪れた人は二度と訪れてくれない自信がある。

 ここでヒトシのキャラをすっかり忘れてしまった人の為に復習しておこう。もちろん他ならぬ作者の為に、である。

 この物語は悪魔のような鬼教師に小学6年のー、いやいやいや、そうじゃないだろ。

 単なる大学生のお話である。お話と言っても、何かとんでもない事件に巻き込まれるとか、とってもせつないラブストーリーがあるとか、そんな話ではない。ただ食堂とかでみんなでわいわいと「お話」しているだけである。それで、よく60以上も書いているなと思うけど、中身は結構適当である。パクリである。

 もしもあなたに多大なる時間の浪費を試す勇気があるなら、どうぞ最初からお読み下さい。ちなみに僕にはそんな勇気は無いけど。

 で、そんなあなたにヒトシの説明である。

 ヒトシというのは一言でいえば、オタクである。

 一番分かりやすいところでは、ちょっと古いけど電車男を想像してもらえばいい。ヒトシは鉄道オタクでもあるから、まんざら間違いでもない。

 もう少し言えば、秋葉系である。もちろんこのお話の舞台は関西だから、それに当たる場所と言えば、日本橋界隈である。ヒトシはほとんど毎日そこに訪れて、我が物顔で徘徊している。気分は王様である。

 そして彼は緑が丘という町名に住んでいる。

 だから伊藤くんはヒトシのアドレス登録に「みどりのアキバオー」と名付けている。もちろん、この事は伊藤くん以外は誰も知らない。

 そのみどりのアキバオーからメールが来たのだ。

 うわっ、それ書く為にここまで引っ張ったのか、と思ってはいけない。思ってはいけないは思ってはいけないは思ってはいけない。

 無料で読める素人の書く文章なんてしょせんこんなもんである。盗作する気にさえならないだろう(すでに倒錯)。

 さてアキバオーのメールはこうだ。

 何でもこの度、メイドカラオケができたというのである。

 メイドカラオケ。何ともけったいな名称である。けったいな、なんて今時使うだろうかというくらいけったいな話である。

 そこにはご想像の通り、メイドの格好をした女子がいて、カラオケを一緒に楽しめるというのだ。ヒトシのメールの端々に興奮の色が見える。実は伊藤くんもヒトシもまだメイドカフェなるものに行った事が無い。

 それがいきなりメイドカラオケの誘いである。

 初代ゲームボーイからいきなりニンテンドーDSに買い換えるようなもんである。何でゲームで例えるのか分からないくらい錯乱している二人である。

 とにかく伊藤くんはゲームを中断して、早速返事を書いた。

 ヒトシさんたら読まずに食べた、わけもなく、かくして二人はメイドカラオケなるものに足を運ぶ事になったのである。