<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

46 またこんな夢を見た。 隣にあぶらぎった険しい顔つきのおじさんがいる。 そしてなぜか電話で悩み相談を渋い顔をしながら聞いているのである。 この男はー。 伊藤くんもおもいッきり悩みを聞いているのである、なぜか。 ホワイトボードには見事なまでの人…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

45 映画館というのは全くもって不思議な空間である。 そこは大勢の人が一つの画面を見つめる広場。 しかし、だからこそいろんな人間がそこにはいる。 マナーを知らない人が多いと思うのは伊藤くんだけだろうか。 先日も映画館でいろんな人間を見た。映画がつ…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

44 「対比って大事だよな」 「えっ?」洋子さんがきょとんした目つきでカズを見る。 きたぞ、きたぞと伊藤くんは思う。カズワールドが今まさに幕を開けようとしているのだ。 「例えば、この塩アメはまさに味のコントラストだ。辛いものが甘いものを引き立…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

43 「話は変わるけど大学に入って驚いた事ってある?」 何かを思い出したように洋子さんが話し始める。 「う〜ん何だろう。まぁ自由になったって事かな」伊藤くんも懸命に記憶をたどる。 「大学ノートって使ってる奴おるんかな」ヒトシがあさっての方向へ話…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

42 「俺が高校生だったら絶対にあの学校には転校しないな」 「何で?」 「だって殺されるじゃん」 「あっ、確かに。それうける〜」 物騒な会話である。でも意味が分からない。 話しているのは洋子さんとカズである。 そして、今の話題はマンガである。 金…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

41 こんな夢を見た。 サングラスをかけたオールバックの男が隣に座っている。少しすきっ歯だ。そして背が低い。サングラスのせいで目の動きが分からない。 観客がいる。100人位だ。 驚いた事に男は観客をあおっている。 そして拍手を静する。 もしかしてこ…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

35 「自首のタイミングって分かる?」伊藤くんが名誉挽回とばかりに火種を点ける。 「自首のタイミング?」洋子さんが輪唱する。ある日、森の中〜。 「自首のタイミングって何やねん」ヒトシに出会った。ダメだ。伊藤くん、慌てて歌詞を直す。 「じゃ、自首…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

40 伊藤くんの近所で最近大きなスーパーが立て続けに(建て続けにか)二軒もできた。これは風光明媚な田舎にとっては一大事である。なぜこんな辺鄙な場所にそんな物が二つもできたのだろう。駅前にはコンビニさえ無い田舎である。 まるで砂漠に突然浮上し…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

39 伊藤くんの利用する駅には、面白いサービスがある。駅の一角に書棚が備えつけてあるのだ。傘の貸し出しというのは、最近よく見かけるようになったけれども、そこにはいろんなジャンルの本が所狭しと並んでいる。おそらく始めは遺失物の本ばかりだったの…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

38 UFOの略をご存じだろうか? 正確には、Unidentified Flying Object。つまり、未確認飛行物体である。 ではP.T.Aの略はご存じか? Parent-Teacher Association。つまり、親と先生の組合である。確かに両者のとっくみあいは日常茶飯事なので間違いではな…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

37 『街』というゲームソフトがある。来月にはついにPSPに移植される予定だ。「ついに」という言葉の重みを感じられるのはごく一部の人間だけかもしれない。週刊ファミ通で読者が選ぶTOP20に常に上位ランクインを果たしつつも、なぜか売り上げの及ばない謎…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

36 今、筆者は生駒山の連なる尾根を見ながらこの小説?を書いている。司馬遼太郎がかつてこの山を遠望しながら、数々の名作を生み出し、今なお日本中の人々に感動と人生の英知を授けているのに比べ、僕はちょうどその反対側からこの山を見て、暗がり峠には大…

<小説のお時間>〜今週の伊藤くんのひとりごと

35 「自首のタイミングって分かる?」伊藤くんが名誉挽回とばかりに火種を点ける。 「自首のタイミング?」洋子さんが輪唱する。ある日、森の中〜。 「自首のタイミングって何やねん」ヒトシに出会った。ダメだ。伊藤くん、慌てて歌詞を直す。 「じゃ、自首…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

29 「さっきのはなかなか楽しかったな」カズが伊藤くんを誉める。 場所はまたまた学食である。 三時のおやつとは誰が決めたのか知らないが、テーブルの上には賛辞のおやつが集まっていると思っているのは伊藤くんだけだろうか。とにかく、みんなでおやつを…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

34 「やり込みゲームって知ってる?」伊藤くんがポテチの袋を開けるように沈黙を破る。実際に彼の手元にはお菓子の山ができている。 いつものごとく、いつもの場所で、いつものメンバーが、いつものように時間を共有しては消費していく。 この場合、何が楽し…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

33 晩ご飯を済ませると伊藤くんは、一人レイトショーを始める。 壁に掛けられた大型のモニターからレンタルショップへアクセスする。このモニターはネット接続されているのだ。いろんな作品パネルの中から『12人の優しい日本人』を選び出す。これは古畑任三…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

32 「いいかい。計算にはきまりがあるんだよ」 伊藤くんが今年で小学校四年生になる中山さとる君に算数を教えている。 「えー、適当に計算しちゃダメなの」さとる君が愛嬌のあるむくれた顔をする。 「物には何でも順序があるんだよ。家に入る時だって、いき…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

31 洋子さんとヒトシの小説談義がひとしきり済んだ後、二人は講義があるという事で席を離れた。残ったのは伊藤くんとカズである。そう言えば、前にもこんな事があったなと伊藤くんは思ったけれど、何の話題をしていたのかはひっそりと佇む神社のように記憶に…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

30 どうにも捨てられない物というのがある。僕(私事ながらこれから筆者の自称はこれに改める)の場合は本である。 「本は僕の体でできている」は真でないが、「僕の体は本でできている」は真である気がする。川島なおみといい勝負だ。焚書坑儒なんて死刑…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

29 「さっきのはなかなか楽しかったな」カズが伊藤くんを誉める。 場所はまたまた学食である。 三時のおやつとは誰が決めたのか知らないが、テーブルの上には賛辞のおやつが集まっていると思っているのは伊藤くんだけだろうか。とにかく、みんなでおやつを…

今週の伊藤くんのひとりごと(総集編)

23 駅までの道のりは時間にして約10分である。そう遠いわけではない。ある家の前を通り過ぎたところで伊藤くんの思考にノイズが入る。 表札の一文字が欠けていたのだ。木製の楕円形の表札にカラフルで立体的な文字が一字ずつ貼り付けてある。伊藤くんの今日…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

28 前回、4人の人間に二枚のカードを配り、1枚のカードに一つだけ任意の名詞を記すという課題を出した。 伊藤くん達がそのカード作りに専念している間に、アイデアの発想法についてもう少し考えてみよう。偉大な発明をする人はその陰でたくさんの失敗を…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

27 「じゃあ、そろそろ始めますか」伊藤くんが席を立つ。 議論の舵はいつもカズに奪われてしまうが、材料を差し出すのは伊藤くんの役目である。漁師とシェフのような関係と言えるだろう。 教壇までは机一つ分くらいしかない。そこから教室を見渡すと、ほんの…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

26 前回、問題が提示された。 細くて狭い廊下で見知らぬ人が向こうから歩いてきた時、あなたならどうするか? そんな問題だった。 実はまだまだ考える事がある。 その人物は何歳くらいの人なのか? 狭い廊下はどこの廊下なのか? 相手の歩く速さとこちらの…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

25 「僕は絶対、握手しないな」 一体、何の話なのだ。 そして誰がしゃべっているのだ。 場所はどこなのだ。 映像の世界と小説の世界の違いをまざまざと感じさせる実験である。 握手をしないなんて、よほどその人物と仲が悪いのだろうか? あるいはサイン会…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

24 ホームに着くといつも感心する事がある。このホームは両側に電車が停まる。ホームからは雄大な山並みが見えるが、伊藤くんにとってはすでに日常風景だ。それは海育ちの人間が海を意識する事が無いように極自然な自然である(不自然な表現だ)。 だからこ…

<小説のお時間>〜伊藤くんのひとりごと

23 駅までの道のりは時間にして約10分である。そう遠いわけではない。ある家を通り過ぎたところで伊藤くんの思考にノイズが入る。 表札の一文字が欠けていたのだ。木製の楕円形の表札にカラフルで立体的な文字が一字ずつ貼り付けてある。伊藤くんの今日の注…

今週の伊藤くんのひとりごと(総集編)

17 ところでみなさんは一人カラオケというのを体験した事がおありだろうか? まず、一人カラオケをするにあたっては、入念なリハーサルが必要である。部屋のアポを取ってから、退出してお金を払うまでが勝負なのだ。 だから頭の中で(できれば前日の夜に)綿…

<小説のお時間>伊藤くんのひとりごと

22 2×3:30−12 6:18か。 相変わらず面倒な目覚まし時計である。もらい物でなかったら、とっくに小さな古時計になってクローゼットの片隅で永眠しているだろう。 伊藤くんの今朝の頭のトレーニングは任天堂DSの『えいご漬け』である。 さらさらと俳人のご…

<小説のお時間>伊藤くんのひとりごと

21 「カズも歌えば?」 入室から約1時間。洋子さんのジャニーズメドレーが終わり、洋子さんのドリカムメドレーが終わり、洋子さんのー つまり、洋子さんが歌い疲れた頃、バトンは男性陣へと回される。アニメソングが歌いたくてうずうずしている二名の男をよ…